最近読んだ本: 'Disgrace' by J. M. Coetzee
2010-10-04


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前述のように、冷え性の私はこのところ暖房がまだつかないのが辛くて、夜はさっさとベッドに入って本を読んでいるのですが、3日で読み終わってしまったのがこの本。ブッカー賞を取った本や著者をなんとなく検索していて、偶然目についたので買ってみたのですが、いやー、うならされました。恥ずかしながら、ノーベル文学賞を取った作家だというのも知らずに読み始めたんですけど。

あらすじの説明には、ケープタウンの大学教授だった主人公のデイビッドが、生徒へのセクハラで告発され職を失って、郊外で農場を営んでいる娘のところに身を寄せる、というようなことが書かれています。いろいろな解説を読むと、このセクハラのことをセンセーショナルに取り上げて、ここが話の核であるかのような書き方をしているものまでありますが、私は全然違うように読みました。この本はもっともっと深い、人間が生きていく上でのどうしようもない葛藤、どうあがいても変えられないものに対する痛烈な苦しい気持ち、そしてそんな中でも人間が見いだすことのできる心の平和、そんなものを鮮烈に描いていると思いました。

デイビットの娘が住んでいる農場での暮らしは、なんとなく映画とかで見たような気はするし(映画の「オーストラリア」の感じでしょうか)数年前に南アフリカに行った時に、人種間の格差は肌で感じたので、想像できないという訳ではありませんでした。でも、農場の場面を読み始めた時は、やっぱりすごく自分の生活とはかけ離れていて、傍観者というか、普通の読者という気分でした。特に動物のシェルターの話は、私は猫好きではあるけれど、動物にそれほど熱中はできないよなあ、と思ったり。それが、読んでいるうちに、完全に本の中の世界に迷い込んでしまった感じで、農場で起こる「普通の人」から見ると「異常」なことも理解できるし、登場人物も自分の知り合いかのように感じられるようになり、とにかく夢中でページを繰っていて、最後のシーンには大泣きしてしまいました。言葉ではとても説明できない、複雑な読後感。人間が、人として、男として、女として、親として、子として、隣人として、友人として、人と大地と動物の間で生きていくとはどういうことなんだろう、と考えさせられます。月並みな表現しかできないのがもどかしいです…。

テーマとして扱っているものがかなり重いので、そういうのが苦手な人にはお勧めできませんが、私としては今年読んだ中ではトップぐらいにすごい本だと思いました。最初はドライなように感じられた文体も、実はこの本の内容にはぴったりで、独特なリズムにひっぱられて読み進みました。英語の読める方はぜひ原文で!邦訳は「恥辱」という題で、ハヤカワepi文庫から出ています。ジョン・マルコヴィッチ主演で2008年に映画化もされています。

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